HOME > 事業・製品情報 > イノベーションストーリー > 特殊化学品 > 世界初!UV硬化型インクに対応。触媒の作用が、古紙再生の力に。
2019年3月 取材
日華化学の界面科学技術は紙パルプ分野でも広く使われています。その製品の一つが、古紙をリサイクルする際、紙からインクを取り除くために使われる脱墨剤です。2017年8月に発売したキャタライザー型脱墨剤「リポブライトDP-310」は独自技術を駆使し、これまで困難とされていたUV硬化型インクの除去を世界で初めて可能にしました。各製紙会社からも好評で、脱墨剤市場における当社の国内シェアをナンバーワンへと押し上げる原動力となっています。その特長などについて開発と営業を担う二人に話を聞きました。
田中 多加志
界面科学研究所 商品開発研究部
機能化学品開発グループ 主席
豊原 治彦
化学品部門 特殊化学品事業部
機能材料部 主席
キャタライザーとは「触媒」を意味し、キャタライザー型脱墨剤は従来の脱墨剤で用いていた界面活性剤の力に加え、触媒の働きを利用することで、これまで困難とされていたUV硬化型インクの除去を世界で初めて可能にしました。 近年、UV硬化型インクを使った印刷物が増加していますが、これは紫外線(UV)を当てると瞬時に固まるUV硬化型インクは、熱で乾燥させて固める従来の酸化重合型インクに比べて生産性が高い上、省エネでVOC(揮発性有機化合物)を含まず環境に優しいというメリットがあるからです。しかし、UV硬化型インクは古紙のリサイクル工程できれいに除去できないため、再生紙の品質不良の原因となっていました。 古紙の脱墨(インクを取り除く)は、まず、大きな釜の中の温水に古紙と脱墨剤を投入し攪拌することで、紙をほぐしインクを剥離、微細化します。その後、インクの成分だけを脱墨剤に含まれる界面活性剤の泡に吸着させ、浮き上がった泡を除去するという工程になります。しかし、UV硬化型インクは硬くて微細化しにくいため、泡に吸着せず紙の繊維と一緒に留まり、再生紙に大きなインクの塊が残るという課題がありました(イラスト参照)。 その原因はUV硬化型インクの中のエステル基と呼ばれる原子の結合が非常に強く、微細化できないためですが、当社の研究開発の成果により、その結合を苛性ソーダと触媒によって切断し、泡に吸着しやすいよう、インクを細かく砕くことを可能にしたのです。 そしてこの機能により、酸化重合型インクの脱墨機能も向上しました。このインクは紙の繊維からはがれにくい特性があり、特に長期間放置された古紙では密着度が高く、製紙会社の悩みの種となっていました。しかし、苛性ソーダと触媒の働きにより、酸化重合型インクに含まれる乾性油の化学結合を切断することで、この問題も解決することができました。
UV硬化型インクに対応した脱墨剤を待ち望む声が製紙会社から挙がるようになったのは6、7年前のことです。 「技術的な突破口が見つからず、競合他社が開発に二の足を踏む状況だったので商機があると感じました」(豊原)。 そこで当社では2015年末に開発をスタート。以前開発した繊維処理剤での触媒の知見を応用し、世界初の技術を確立させました。とはいえ開発が一朝一夕に進んだわけではなく、合成・評価した化合物は100種類以上に及び、その中から最適な触媒を選定しました。リサイクル工程を再現するラボ試験では人手が必要なため、営業スタッフも一緒になって取り組みました。 画期的な製品だけに製紙業界からの反響は大きく、紙パルプ技術協会が主催したセミナーでの新技術発表後すぐに、多くの顧客から説明の依頼が殺到しました。性能に対する評価は非常に高く、従来当社の脱墨剤を使っていた古紙再生ラインはもちろん、他社製品が使われていたラインでも採用が進み、脱墨剤市場の当社の国内シェアは40%以上にまで上昇しました。脱墨性能がアップし、その後の漂白工程で必要だった薬剤が少なくて済むため、古紙リサイクル工程のコストダウンにも寄与しています。 また、古紙リサイクル率の向上、ひいては森林資源の保全につながるため、地球環境への負荷軽減に貢献する製品と言えます。「キャタライザー型脱墨剤の物語は始まったばかり」(田中)であり、今後は今回の開発で得た技術を応用し、製本時や伝票を貼付する際に使われる接着剤が混ざったよりリサイクルが難しい古紙を処理するための薬剤など新製品開発につなげていく考えです。
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