当社グループでは、気候変動が事業経営にどのような影響を与えるのかを検討し対応を経営戦略へと反映させることを目的として、シナリオ分析を通じた気候変動による影響評価を実施しています。現在実施済みのシナリオ分析では当社の化学品事業セクターを対象とし、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の公表する複数のシナリオを参考に2030年時点での影響についてリスクと機会を定量・定性の両面で評価しています。なお、分析にあたって設定したシナリオは以下のように定義しています。
当社グループでは経営軸の一つにサステナビリティを定め、「EHD (Environment:環境・Health:健康/衛生・Digital:先端材料)」の3つの領域を軸足に、社会課題の解決に貢献することを目指しておりますが、当社グループにおける環境に関する重要課題の審議検討を行う組織として、サステナビリティ委員会(委員長:代表取締役社長、委員:経営会議メンバー)を設置しています。当委員会では気候変動への対応を含む環境課題をはじめ持続可能な社会の実現に係る諸課題を総合的に評価し、その審議内容は定期的に取締役会へ報告の上、決議を得ることとしています。また、全社的な取り組みの進捗管理をはじめとした気候変動に関する計画立案等を行う事務局として、当委員会下にサステナビリティ統括部会を設け、当部会が取締役会での決議事項等をグループ各社へ伝達・管理を行うことで、全社的なサステナビリティ経営への統合を図ることとしています。
当社グループでは、気候変動が事業経営にどのような影響を与えるのかを検討し対応を経営戦略へと反映させることを目的として、シナリオ分析を通じた気候変動による影響評価を実施しています。現在実施済みのシナリオ分析では当社の化学品事業セクターを対象とし、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の公表する複数のシナリオを参考に2030年時点での影響についてリスクと機会を定量・定性の両面で評価しています。なお、分析にあたって設定したシナリオは以下のように定義しています。
4℃シナリオ | 1.5℃シナリオ |
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産業革命期と比較して21世紀末頃に世界平均気温が4℃上昇するシナリオ。経済成長を優先課題とし、気候変動政策は2021年時点で施行されている規制以上に強化されない。 | 産業革命期と比較して21世紀末頃の世界平均気温の上昇幅が2℃未満に抑制されるシナリオ。カーボンニュートラルの実現に向けて、積極的な環境政策が推進される。 |
参 IPCC:RCP8.5 考 IEA WEO2021:STEPS |
参 IPCC:RCP2.6 考 IEA WEO2021:APS SDS NZE2050 |
区分 | 要因と事象 | 評価 | 現在の取り組み状況 | |||
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影響種別 | 4℃ シナリオ |
1.5℃ シナリオ |
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脱炭素化社会への移行による影響 | カーボンプライシング | 炭素税の導入をはじめとする事業運営コストの増加 | リスク | 小 | 大 | ・CO2排出量削減目標の設定 ・再生可能エネルギー由来電力への切り替え ・ボイラー更新による環境負荷低減 |
エネルギーコストの変化 | 再生可能エネルギー由来発電への切り替え等による購買電力価格の高騰 | リスク | 小 | 中 | ・太陽光発電設備の設置導入 | |
低炭素技術の進展 | 低炭素技術の開発及び脱炭素化を見据えたDX化の推進に伴う関連製品の需要拡大(フッ素化学品、水系ウレタン樹脂、ほか) | 機会 | 中 | 大 | ・先端情報技術分野における技術応用及び事業推進 | |
顧客行動変化 | サプライチェーン全体での脱炭素化ニーズ拡大による環境負荷低減ニーズの拡大 | 機会 | 小 | 大 | ・環境系第三者認証の取得 ・環境対応型製品開発に向けた技術投資 ・Smart Dyeing Processの提案 |
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地球温暖化に伴う物理的影響 | 異常気象の発生 | 自社拠点及び物流網の被災による被害規模の拡大 | リスク | 大 | 大 | ・BCPの定期的見直し ・拠点別防災訓練・教育の実施 |
原材料価格への影響 | 原油価格高騰による石油由来原材料の需要変化、パーム油などの農作物系原材料の収穫不良に伴う価格高騰 | リスク | 大 | 中 | ・RSPO対応パーム油の使用推進 ・自然由来原料、天然系素材、バイオ系原料を用いた製品開発 |
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平均気温の上昇 | 年間を通じた気温上昇をはじめとした適応ニーズの拡大(冬物衣服需要の低下による化学繊維需要の縮小) | リスク/機会 | 中 | 中 | ・環境衛生・高機能加工ニーズに対応した技術・製品開発 |
【評価指標】
大:将来の営業利益予想に対して、±3%以上の影響を試算した項目
中:将来の営業利益予想に対して、±3%未満の影響を試算した項目
小:試算した影響額が極小、もしくは影響が無いと思われる項目
※定量評価が困難な影響は定性的な考察を踏まえて評価し、当該項目はグレー塗りで示しています。
経済成長を優先課題とし、気候変動政策が推進されない4℃シナリオでは、異常気象災害の激甚化と頻発化による重大な物理的被害が予想され、洪水や高潮による各営業所や工場への直接的被害や営業停止による損失が拡大することを試算しています。一方で当社は拠点の分散化を図っており(国内:23拠点、海外:19拠点※2023年12月現在)、激甚的な気象災害の発災時にも事業継続に支障を及ぼすことの無いようリスクの分散化にも注力し、リスク低減を図っています。また社会への影響として災害発生時の避難生活時における健康被害が予測される中、当社は抗菌・防臭・抗ウイルス技術及び消毒剤等の衛生商品の開発を積極的に進めており、これらの取り組みが当該シナリオにおける社会貢献に繋がるものと評価しています。
低炭素社会の実現に向けて積極的な環境政策が推進される2℃シナリオでは、脱炭素化に伴う法規制の導入や社会の意識変革による影響が顕著となると想定しています。支出の側面では、炭素税や排出権取引制度の拡大が操業コストを増加させるだけでなく、国内外における拠点の国の政策状況や地域特性に応じた対応も迫られることが考えられるほか、エネルギー政策によるエネルギー需給の変容により、各国拠点共に購買電力の価格高騰も予想されます。収益面では社会の環境意識の高まりによる環境配慮型資材の使用に対する要請や服飾製品の循環利用及び長時間利用による販売数量の減少も懸念されますが、当社の「EHD(Environment:環境・Health:健康/衛生・Digital:先端材料)」への貢献を開発コンセプトに掲げた製品開発の推進は、そうした社会からの要請の強まりを見据えた取り組みであり、今後想定される脱炭素化を見据えた需要にも応え得る取り組みとして、事業機会となる可能性を認識しています。
当社グループでは今回想定したシナリオが双方ともに現実となる可能性を踏まえ、物理的被害の拡大にあたってはBCP対策、脱炭素化への移行へ向けては「EHD」を軸足とする事業構造の転換の推進などを進め、気候変動に対してもレジリエントな経営の実現を目指して取り組んでまいります。またカーボンニュートラルの達成に向けては、既に当社では自社の環境負荷低減に向けてCO2削減努力の推進や繊維加工におけるサプライチェーン全体での環境負荷低減も見据えたSmart Dyeing Processの提案など、事業活動全体を通して脱炭素化の推進に注力しておりますが、これらの取り組みも今回の分析を踏まえ特定したリスクの低減や緩和、企業価値向上や成長機会に繋がるものと考え、さらにその取り組みを推進してまいります。
今後は当社の化粧品事業セクターにも考察範囲を広げ分析を深化させると共に、今後も環境や社会の変化に積極的に対応し、ケミカルグリーンコンセプト「全員参加で自ら築くやさしい環境」を実践しながら、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。なお、現在実施中の個別具体的な取り組みについては、当社の環境・社会活動報告書にて報告しております。
当社グループにおける気候変動をはじめとしたサステナビリティに関するリスクの管理及び統括は、サステナビリティ委員会が担っています。サステナビリティ委員会下のサステナビリティ統括部会がリスクの識別、評価、及び管理監督の実働を担っており、気候変動リスクについてはシナリオ分析の手法を通して事業へ重大な影響を及ぼす重要リスクを評価特定しています。特定した重要課題はサステナビリティ委員会に報告し、持続可能な社会の実現に係る諸課題も含め総合的に評価した上で取締役会へ報告の上、決議を得ることとしています。以上のプロセスを通じて特定した重大課題については、サステナビリティ統括部会が事務局となり、リスク発生の未然防止策と、問題が発生した場合の早期発見及び損失の最小化のための対策が講じられ、各部門及び各グループ会社へ指示監督、進捗管理を行うこととしています。
当社グループは、SDGsへの取り組みの一環として2021年から中期経営計画「INNOVATION25」において、「2030年にグループ全体のCO2実質排出量(Scope1,2)30%削減※2018年度比」を経営目標の1つとして設定しており、当社グループの気候変動対応の取り組み状況の評価指標として引き続きその進捗を追ってまいります。CO2排出量削減に向けての取り組みとしては、福井県内の事業所(本社・鯖江工場)において北陸電力の「かがやきGREENピュア」を導入し再エネ100%の電気使用としたことで、電力由来のCO2排出量ゼロを実現しております。また、化石燃料使用に伴うCO2排出量の削減についても、ボイラー老朽化による更新に際して従来の重油燃料ボイラーからLNGボイラーへ更新しております。グループ全体においても生産工程削減の検討や省エネルギータイプ設備への変換、太陽光発電システムの設置やLED化の促進などに取り組むことで、環境負荷の低減を図っております。
算定範囲:scope1,2,3とも全て当社連結
CO2排出量 実績 | |||
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2023年 | 2018年(基準年) | ||
CO2総排出量排出量 | 16,378t-CO2 | 26,738t-CO2 | |
内訳 | SCOPE1排出量 | 6,096t-CO2 | 8,859t-CO2 |
SCOPE2排出量 | 10,282t-CO2 | 17,879t-CO2 |
2023年 | |||
---|---|---|---|
SCOPE3総排出量 | 518,550t-CO2 | ||
内訳 | カテゴリー① | 購入した製品・サービス | 478,808t-CO2 |
カテゴリー② | 資本財 | 3,831t-CO2 | |
カテゴリー③ | Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動 | 3,027t-CO2 | |
カテゴリー④ | 輸送・配送(上流) | 14,433t-CO2 | |
カテゴリー⑤ | 事業から出る廃棄物 | 2,201t-CO2 | |
カテゴリー⑥ | 出張 | 1,967t-CO2 | |
カテゴリー⑦ | 雇用者の通勤 | 712t-CO2 | |
カテゴリー⑧ | リース資産(上流) | 2,278t-CO2 | |
カテゴリー⑨ | 輸送・配送(下流) | 45t-CO2 | |
カテゴリー⑩*1 | 販売した製品の加工 | - | |
カテゴリー⑪*1 | 販売した製品の使用 | - | |
カテゴリー⑫ | 販売した製品の廃棄 | 11,083t-CO2 | |
カテゴリー⑬ | リース資産(下流) | 165t-CO2 | |
カテゴリー⑭*2 | フランチャイズ | - | |
カテゴリー⑮*2 | 投資 | - |
(注)
・SCOPE3の算定については、環境省が発行する『サプライチェーン排出量算定の考え方』(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf)に基づき、産業技術総合研究所「LCI(ライフサイクルインベントリ)データベース IDEA Ver2.3」等を参考に2023年度分より算定開始。
*1 (化学品)当社製品は中間製品であり最終製品を製造するための原料として多用な用途で使用されていることに加え、最終製品における当社製品の使用量は非常に少量であるため、合理的算定の対象外とする。
(化粧品)当社製品は最終製品であるが、当社製品使用によるCO2排出量は少量であるため対象外とする。
*2 該当する活動がなく、対象外。
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