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事業・製品情報

急伸する「繊維輸出大国」バングラデシュ。
"加工技術サポート"を武器に、シェア拡大を狙う。

2017年3月 取材

香港日華化学ダッカ事務所

ダッカ事務所は2014年8月、日華化学の子会社・香港日華化学有限公司の駐在事務所として、バングラデシュの首都・ダッカ市内に設立されました。以来、当地の繊維加工業をターゲットに、2015年度は120万ドル(米ドル・約1.3億円)、2016年度は230万ドル(同約2.5億円)と急速に売上高を伸ばしています。バングラデシュは近年世界第2位のアパレル(衣類)製品輸出国に登りつめ、国家を挙げて繊維産業の振興に取り組んでいます。バングラデシュの繊維産業と、その巨大な市場でアプローチする現地事務所の現状をご紹介します。

竹内 幸太郎

香港日華化学ダッカ事務所
事務所長

内山 眞昭

香港日華化学ダッカ事務所
シニアエリアマネージャー

輸出品の8割がアパレル製品

─バングラデシュについて教えてください。

バングラデシュは繊維産業を中心に西南アジア経済圏で世界の繊維産業の中心国とし近年急速にその存在感を増している国です。国土面積は日本の4割程度ですが、そこに1億6万の人々が住んでおり、豊富な若い労働力と繊維縫製品を生産していく上で有利な手先の器用な国民性が特徴で、安価な人件費とエネルギーコストを生かし、労働集約型の繊維産業が急速に成長を遂げてきました。政府も国策として繊維産業をバックアップしており、またLDC(後発開発途上国)のため輸出先から特恵関税(※1)を受けられることもあって2010年頃から、特に欧州向けアパレル製品の輸出加工地として急激に伸び、今日では輸出全体に占める比率が80%にも達しています。

─事務所の開設目的や陣容は?

香港日華化学は、15年以上前からPT.インドネシアニッカケミカルズ(※2)で生産した繊維加工用薬剤をバングラデシュ向けに供給してきましたが、さらなる市場開拓・事業拡大を目指し、ダッカ事務所を開設しました。現在、事務所はダッカ中心部の住宅街にあり、日本人2と現地採用の5名で運営しています。加工試験ができるラボ設備も事務所に備えており、2名が当試験を担当しています。

順調に伸びる業績

─バングラデシュの繊維産業の動向は?

最初はミシンがあればできる「縫製品」から始まりました。その後、縫製品輸出の増加に支えられ、次第に紡績から編、織布そして染色加工といった縫製品をつくる加工場が操業を始め、今日ではそれらを一貫して手がける"コンポジット"(※3)と呼ばれる大規模な工場が出現するなど、繊維関連企業の大型化も進んでいます。現在繊維産業全体で3,500社を上回る縫製工場と約350社の染色加工工場があり、そのうち50トン/日の生産規模を持つコンポジットが50社もあり、主に欧州の各大手アパレル企業に輸出しています。この国の繊維産業は今日でも年率6%以上成長しており、この傾向は少なくとも2025年まで続くと予想されています。また繊維産業はこの国の重要かつ花形産業であるため、優秀な人材も集中しています。いわゆる日本の東大にあたるダッカ大学を卒業したエリートたちは繊維大企業に就職し、工場運営や経営現場でリーダーとして活躍していくのです。

─業績は順調に伸びていますね。

売上高はおかげさまで前述のとおり大幅に伸びており、事務所開設当時15社ほどだった顧客も40社程度に増えました。現在直接取引できる顧客を開拓するとともに、当社の製品を取り扱ってくれる代理店網の構築にも力を入れています。こうした努力が実を結び、現在の業績に繋がっていると考えています。今後はこの動きをさらに活発化し、さらなるトータルシェア率3%を目指した売上増を目指したいですね。

品質や指導力を武器に

技術セミナーで講演する内山

──今後の戦略は? バングラデシュが繊維産業で急伸しはじめた当時、繊維加工用薬剤の市場は欧州メーカー品によって席巻されていました。当社はこのような極めて不利な状況からビジネスをスタートしたのですが、当社ならではの特色を出すことで業績を伸ばしています。その特色の一つは加工品質です。成熟した欧州市場のニーズに合うよう、一定水準以上の仕上がり品質が求められ、また加工工程で有害物質を出さないなど環境対応も必須条件となってきています。最近では日本の大手SPA(※4)向けの輸出も増加し、ますますこういった高品質対応・環境対応が必要となっていますが、こうした加工対応は当社の得意とするところです。
もう一つの特色はカスタマイズ力と指導力です。当社のターゲットとなるのは350を数える染色加工会社中、コンポジットを含むトップ100社で、いずれも大規模な工場を運営しており生産合理化に貪欲に取り組んでいます。繊維加工の仕上がりは、使われる機械や水、温度等さまざまな要因で左右されますが、これらの企業に対し、事務所のラボ設備を利用しながらそれぞれの工場環境に最適化(カスタマイズ)した加工薬剤を作り、その「使い方指導」「コストダウン提案」も行いながら経営に貢献していくのです。これは当社がこれまで多くの企業で実践し、確かな実績を残してきた伝統的な手法です。同業他社と比較してもこのような体制を築いている会社は珍しいですね。
3月には、現地でコンポジットをはじめとする繊維加工会社の経営者、マネージャーなど、お客様を含め約180名を招き、技術セミナー「Nicca Innovation in Textile Chemicals」を開催しました。これを機会に繊維加工技術や工程合理化などについて蓄積してきた当社の知見をより広く提供し、「頼りがいのあるパートナー」として存在感をさらに高めていきたいと考えています。

用語解説

(※1)特恵関税
LDC(後発開発途上国)からの輸入について一般よりも低い関税を適用することで、LDCの経済発展を支援する制度。

(※2)PT.インドネシアニッカケミカルズ
インドネシア共和国カラワン市。日華化学の子会社(出資比率90%)で、1974年に設立。
日華化学から製品・中間体を購入し、薬剤の生産・販売を手がけている。

(※3)コンポジット
複数のものを組み合わせたものの意味。
繊維産業においては糸の調達から生地の生産、染色加工等を経て最終縫製品となるまで、製品づくりを一貫して行う企業のことを指す。

(※4)SPA
Specialty store retailer of Private label Apparelの略で製造小売ともいう。
企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデルを持つ企業。