HOME > 事業・製品情報 > イノベーションストーリー > 先端材料 > 超高速での遺伝子検査を可能にする試薬の量産化に成功し、供給開始へ。
2017年3月 取材
「生命の設計図」とも呼ばれる遺伝子。この遺伝子を検査・解析することで、がんなどのリスクや、個人の体質の特徴を知ることができます。北陸先端大(※1)の藤本健造教授と共同研究を進めてきた当社は、超高速で遺伝子検査を可能にする試薬の量産化に成功し、販売を始めました。医療や創薬といった応用分野のみならず、ケミカルバイオロジー分野(※2)等の基礎分野でも利用が期待されます。
稲継 崇宏
特殊化学品本部
副本部長(研究開発担当)
兼事業企画室長
石丸 勇雄
研究開発部
向當 綾子
研究開発部
従来の手法と比べ格段に短時間で、しかもほぼ100%の精度で遺伝子を解析できる―そんな技術が開発されたことを受けて、当社は解析に欠かすことができない「試薬」の量産化に挑み、成功しました。
この遺伝子解析技術を開発したのは、北陸先端大マテリアルサイエンス研究科の藤本健造教授の研究チーム。藤本教授らはかねてより遺伝子を操作する技術開発に取り組み、遺伝情報を持つDNAや、DNAから遺伝情報を転写されるRNAなどの核酸を、光を照射するだけで高効率に「切ったり」「つないだり」「捕まえたり」することができるユニークな機能性核酸の創製に成功。2015年の時点でほぼ実用化の段階までこぎつけていました。
しかし、この技術を使うには、光に反応しDNAの特定の部位と結合するという機能を持った特殊な「試薬」が必要となってきます。研究チームは試薬の合成にも成功していましたが、多段階にわたる精緻なプロセスを要するため、合成収率は極めて低く生産量が限られていました。また試薬の実用化に向けては供給量確保が求められていた上、低コスト化も大きな課題となっていました。 世界的に成長著しいバイオ産業において、先行する欧米の後塵を拝する状況から脱し「"日本発・北陸発"の技術を立ち上げたい」とする藤本教授らの熱意に応える形で、2015年5月、当社は事業化の検討を開始したのです。
当社はコア技術である精密有機合成の知見を生かして、同年7月に試薬の第一次試作品の合成に成功し、求められる性能をクリアしました。その後1年間にわたり藤本研究室と共同研究を重ねながら改善を進め、原材料から精製方法、合成プロセスまでのすべてを見直しながら収率を高めることができました。その結果、高品質を確保しながら低コスト化も実現、2016年9月、正式に市場投入を開始し、安定供給への道を拓きました。
現在、当試薬「CNVシリーズ」を、DNA/RNA合成試薬、および試薬を組み込んだ修飾オリゴ核酸(※3)として業務提携先パートナーの協力を受け、生産・販売しております。
当社では、試薬の供給先として全国の医療機関や研究機関を想定し、藤本研究室や顧客と共同で実用化に向けた作業を進め、商社などとともに販売チャネルの整備に取り組んでいます。また、この試薬は、分子標的薬治療(※4)など先進医療のために遺伝子診断をする体外診断用医療機器への用途のほかにも、遺伝子治療や生体高分子(※5)の機能解明や、核酸医薬品(※6)製造などの分野での活用が将来期待されています。
今後さまざまな分野でさらなる貢献を果たし、成長分野を創っていきたいと考えております。
(※1)北陸先端大
北陸先端科学技術大学院大学。石川県能美市にあり、「JAIST」の通称で知られる。
日本初の国立大学院大学として1990年に設立され、主に産学官が連携した研究を行う。
(※2)ケミカルバイオロジー
分子生物学的な手法に加えて有機化学的な手法も駆使し、核酸や蛋白質など、生体内分子の機能や反応を分子レベルから扱おうとする学問領域のことを指す。
(※3)修飾オリゴ核酸
遺伝子検査の際、検査効率を上げるために、対象となる遺伝子と他の遺伝子を区別できるよう目印をつけたり操作したりする。
その際化学的に合成された(=修飾)小さな(=オリゴ)核酸=修飾オリゴ核酸が幅広く使われ、遺伝子の研究や検査には幅広く使用される。
(※4)分子標的薬治療
投薬により体内の特定の分子を狙い撃ちにして、分子の持つ機能をおさえるようにする治療のこと。特にがんの治療などに活用される。
(※5)生体高分子
体内に存在する高分子の有機化合物のことで、糖質、タンパク質、核酸(DNA・RNA)などがある。
(※6)核酸医薬品
従来から使われていた治療薬の種類「低分子医薬品」「抗体医薬品」に続く第3世代として期待されている医薬品。
DNA・RNAの構成成分である塩基を組み合わせて合成したもので、がん治療などへの活用が期待される。
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