HOME > 事業・製品情報 > イノベーションストーリー > 繊維化学品 > ポリエステル繊維から染料を簡単に除去。再利用を進め、廃棄と環境負荷の低減へ。
2022年8月 取材
当社は2022年4月、エレファンテック株式会社(東京都中央区)と共同で、ポリエステル繊維から染料を取り除く薬剤と技術を開発しました。近年、テキスタイル製品の大量廃棄は、衣類で51万トンとの調査(※1)もあり、環境負荷が業界の課題となっています。共同開発した薬剤と技術をどのようにして繊維製品の有効利用や環境負荷低減につなげていくのか。エレファンテックの杉本雅明副社長と当社界面科学研究所フェローの松田光夫に、開発のいきさつやこれからのビジネス展開について聞きました。
杉本 雅明氏
エレファンテック株式会社
取締役副社長
松田 光夫
界面科学研究所
フェロー(イノベーション担当)
──共同開発を始めたきっかけは。松田●エレファンテックは環境に優しいモノづくり技術を開発するスタートアップ企業です。杉本さんとは、福井市が主催する「X STUDIO(※2)」を通じて知り合いました。 2018年にはNICCAイノベーションセンターでイノベーションの創発を目的とした講演会を開催し、杉本さんに講師をお願いしました。講演会後、その内容に刺激を受けた社員数名が自発的なモノづくり活動「MO-SO(妄想)ミーティング」を社内で立ち上げ、新製品開発をテーマに議論を深めていきました。その後、杉本さんからの相談を機に活動の一環として開発がスタートしました。
杉本●世界的なスポーツ大会の延期によって、大会ロゴがプリントされた衣類が大量に廃棄されるかもしれず、アップサイクル(※3)するための技術を開発できないかとアパレル関係者から相談されたのです。日華化学の繊維加工に関する技術力やオープンイノベーションに前向きな姿勢を知っていましたから、松田さんに共同開発を打診しました。
松田●これを受け、MO-SOミーティングのメンバーが試作品づくりを始めました。
――開発したのはどのような技術ですか。 松田●生産量が多く、幅広い用途で使われていて、当社が加工薬剤の開発を得意とするポリエステル繊維を対象にした、染料を取り除く技術です。プリント柄を識別できなくする薬剤の開発、検討を進めたところ、想定以上にきれいに染料を除去できる処方の開発につながりました。具体的には、色を抜きたい部分に薬剤を塗布し、その上に吸取紙を置いて熱をかけると、染料が紙に移行して除去できるという方法です。染料が動く様子がペーパークロマトグラフィという分析法と同じことから、「ネオクロマト加工」と名付けました。
杉本●これまでは、ポリエステル繊維に使われた染料は取り除けないというのが業界の常識でしたよね。
松田●ええ。ポリエステル繊維は構造的に染料が繊維に深く入り込みます。そのため、染料を除去するには環境負荷の高い薬剤や厳しい処理条件、大量の洗浄水などが必要で、一般的ではありませんでした。
杉本●ネオクロマト加工はそんな常識を覆し、何度でも新たな柄をプリントし直すことができるので、繊維製品の寿命が延び、廃棄物も減らせます。
松田●作業は数分で済み、水も使わない環境に優しい技術です。
――どの程度、環境負荷が低減できますか。 松田●さまざまな指標がありますが、1着の服を作るのに、数千リットルの水を消費し、約25kgのCO2が排出されると言われています(※4)。ネオクロマト加工でポリエステル繊維の寿命を延ばすことで、捨てない選択を増やし、環境負荷の低減につなげられると考えます。
――どんなビジネス展開を考えていますか。 杉本●まずは展示会や大規模イベント、店頭でのPRに使われるバナー、タペストリー、のぼりなど「ソフトサイネージ」を対象にします。これらは製品寿命が短く、サービス化に適しています。生地の回収から染料の除去、再プリントなど、一連のサービスを提供するための連携体制を構築し、できるだけ早く事業を立ち上げる計画です。もちろん、アパレル製品へのビジネス展開の可能性も探っていきます。
松田●今回の開発はアップサイクル技術の足掛かりです。さまざまな素材への応用展開の可能性を検討しながら、大量廃棄が問題となっている繊維製品の有効活用につなげていきます。当社の国内外のネットワークを通して、環境意識の高い欧米スポーツアパレルメーカー等へもPRし、業界ニーズを探っているところです。
――オープンイノベーションに取り組んでどのように感じましたか。松田●自分たちだけでは成し得ない、予期せぬことが起こるのはオープンイノベーションならではです。また、繊維業界の中でも、これまで接点のなかった企業とのつながりができたこともメリットでした。
杉本●企業の価値は社内からと社外からとで見え方が異なります。今回のオープンイノベーションも企業の価値の再発見、最大化につながると考えています。環境負荷の低減に向け、日華化学の界面科学技術が役立つところはまだまだあるはずで、繊維業界以外からも頼られる企業として、さらに成長できる可能性を秘めていると感じました。
(※1)衣類の大量廃棄
2020年の衣類の国内新規供給量は計81.9万トンに対し、廃棄量は計51.0万トン。
詳細はこちらをご覧ください(日本総合研究所ウェブサイト「環境影響調査」)
(※2)X STUDIO
首都圏などからのクリエイティブな人材と福井市内企業の人材が、福井の文化や風土を紐解き、社会の動きを洞察しながら事業・プロジェクトを創出するプログラム。
(※3)アップサイクル
使い終わって本来ならそのまま廃棄される製品の一部を再利用して、新たな価値のある製品に生まれ変わらせること。
(※4)服1着あたりの環境負荷
詳細はこちらをご覧ください(環境省ウェブサイト「サステナブルファッション」)
関連リンク
・トピックス ポリエステルアップサイクル技術『ネオクロマト加工』をエレファンテックと共同開発
・事業・製品情報 >繊維化学品
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