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事業・製品情報

新製品開発や新規事業の創出に向け、
異質なものを混ぜ合わせイノベーションを。

2018年9月 取材

日華化学では「世界中のお客様から最も信頼されるイノベーション・カンパニー」を全社基本ビジョンとする2025年までの長期経営計画「INNOVATION25」に取り組んでいます。長期経営計画に掲げた目標の達成に向けて重要なのは、オープンイノベーションを推進し、新製品の開発や新規事業の創出を加速することです。2017年11月にはオープンイノベーションを活発化させるための新たな研究開発拠点として「NICCA イノベーションセンター(以下、NIC〈エヌアイシー〉)」を本社敷地内に開所しました。稼働を始めて約9カ月が経過した現在の状況について、化学品部門の研究開発を統括する界面科学研究所長の稲継崇宏と、化粧品部門の研究開発を統括する毛髪科学研究所長の坪川恒一郎に聞きました。

稲継 崇宏

取締役
界面科学研究所長

坪川 恒一郎

執行役員
デミ コスメティクス バイスプレジデント
兼 毛髪科学研究所長

NICに知の融合促す仕掛け

──そもそもなぜオープンイノベーションが必要なのでしょうか。 坪川●既存事業、既存技術の付加価値を高め、永続的に企業を発展させていくには絶え間ない革新、つまりイノベーションが必要です。その実現には異質なものが混ざり合うことが欠かせず、最適解と言えるのがオープンイノベーションなのです。当社には化学品と化粧品という二つの事業の柱がありますが、従来は別の建物で仕事をしていて、交流する機会はそれほど多くありませんでした。しかし、異なる特長を持った研究開発陣が協働すれば、他社にはできないことができると考えています。さらに、さまざまなビジネスパートナーや大学、研究機関を巻き込むことで、よりインパクトのあるイノベーションの創出を目指しています。 稲継●私が統括する化学品部門では、手がける製品のほとんどは最終製品ではなく中間材ですから、研究開発にあたっては、これまでも川上や川下に位置するメーカー、あるいは大学や研究機関と連携してきました。ただ、従来は協働の成果を社内に取り込み、自前の技術で最適化した上で製品化してきましたが、近年、我々の技術の延長線上にあるものより、さらに高度で多様な要望が寄せられるようになりました。その結果、自前の技術にしてから提供するプロセスを踏んでいては間に合わなくなり、これまでより一歩進んだオープンイノベーションの推進が必要になってきたのです。 ──オープンイノベーションの推進に向け、NICには大きな期待がかかっていますね。 坪川●まずは界面科学研究所と毛髪科学研究所の知を融合させることが第一歩です。2階には化粧品部門、3階には化学品部門のスタッフが働いていて、各フロアは気軽に行き来できるようになっている上、館内のあちこちにソファやテーブル、ホワイトボード等が設置されていますので、思い立ったらいつでも気軽にミーティングできるようになっています。化粧品部門で言えば、1階には「デミヘアサイエンススクエア」(※1)を設け、社内だけでなく、外部からお客様を招いて、共通の目標に向かって協業する環境を整えています。実際、化粧品部門の商品を扱う代理店や美容室の方に来社いただいて、試作品の使用感を試してもらったり、意見をいただいたりして、ものづくりに生かしています。化学品部門の社員や設備も自然と目に入りますから、化粧品メーカーとしてだけでなく、化学メーカーとしてのバックボーンを感じていただくことができ、お客様からの信頼度が一段と高くなる効果もあると実感しています。 稲継●NICには働き方改革を促す仕掛けがいろいろあります。例えば、2階と3階は決まった座席を設けないフリーアドレス制を採用しました。異なる分野の研究者が隣り合って仕事をしたり、異なる職種のスタッフが近くにいたりと、自分と違った価値観と日常的に接する環境を作り出し、知の融合を生み出すことが狙いです。また、NICは開放的な空間に設計されていて、研究所にありがちな静まりかえった環境ではなく、少しざわざわとした雰囲気です。そうした話をしやすい環境もコミュニケーションを加速させてくれます。

意識が変わり、協働の成果も

──NICの稼働後、社員の働き方に変化は現れていますか。

坪川●空間が広いと視野も広くなります。研究スタッフは一人一人、担当するテーマが決められていますから、今までは発言する内容もテーマにとらわれたものが多かったのですが、NICで働き始めてからは発言や思考の幅が少しずつ広がっていると感じます。研究体制も以前は別々に活動していた基礎研究チームと商品開発チームが同じテーマで取り組むなど、よりフレキシブルになりました。化学品部門との距離も近くなり、部門の枠を超えたコミュニケーションも確実に増えたことで、オープンイノベーションが一層活発化すると期待しています。

稲継●環境が変わると人の感じ方や考え方も変わります。化学品部門においても、NICの開所以降、気軽な短時間の打ち合わせが増え、特に若手を中心に表情も明るくなりました。また、化学品部門は従来、事業部ごとに研究を行う縦割り型の組織で、基礎研究を手がける部隊とお客様のニーズに沿って製品化を進める部隊にもやや隔たりがありました。これでは横の連携に乏しく、硬直的で、効率性や機動性も低くなりがちだったので、NICの稼働に合わせて組織を見直し、界面科学研究所として一本化しました。こうすることで、各研究部隊の距離が縮まって、部門を横断した研究開発を戦略的かつスピーディーに推進することが可能になりました。

──具体的な成果は現れていますか。

坪川●2018年6月に発表した「グロス染料」がその好例です。これはアレルギーリスクを大幅に低減した新たなヘアカラー用染料です。化粧品部門が得意とする浸透・染色技術と化学品部門が長年培ってきた合成技術を活用して開発しました。従来、化粧品の原料は既製品を購入するしかなく、他社との差別化や画期的な製品の開発が難しかったのですが、化学品部門の技術を生かすことで、世界初の原料成分を生み出すことができました。化学品部門には我々が応用できる技術がまだまだあると思っています。また、化粧品部門で扱うトリートメントの基剤には髪の質感や手触りをよくするものがあるのですが、これを繊維加工に応用すると繊維の質感をアップさせる効果があることが分かり、現在は製品化を目指して協働を進めています。

稲継●化学品部門と化粧品部門は面と面、双方向の付き合いができるようになってきたと感じています。もちろん、オープンイノベーションの輪は社外にも広がっています。NICの開所により、さまざまな分野のトップの方々に来ていただけるようになり、連携を促進するための素地ができてきました。これまで当社と取引のなかった業界の方やアプローチできていなかったターゲット顧客ともつながりができて、新たなビジネスチャンスが広がっていると感じます。例えば、化粧品部門のお客様が抱える問題を化学品部門のビジネスパートナーと協力して解決するといった今までにない事業テーマにも着手するなど、既に複数のプロジェクトが動き始めています。技術的にも、ビジネスモデルの面でも、社外を巻き込みながら確実にイノベーションが生まれています。
また、我々はNICのほか、中国、韓国、台湾の子会社に基幹研究機能を有し、それぞれが各地域の産官学とネットワークを構築しています。さらに、約3年半前から欧州最大の炭素繊維複合材料研究クラスター「CFKバレーシュターデ」(※2)に所属し、欧州の産学にもつながりを広げています。こうした国内外の大学や研究機関、ビジネスパートナーを巻き込んだオープンイノベーションを仕掛けることで新たな事業領域への進出を目指しています。具体的な成果としては、2016年に発表した超高速遺伝子検査用試薬(※3)、2017年に製品化したプロジェクター用透過型スクリーン「ディアルミエ®」(※4)があり、今もいくつもの案件で研究開発を進めています。スクリーンのような最終製品の事業化にあたっては、化粧品部門のお客様の協力を得て、試験的にマーケティングするといった連携にも取り組んでいます。

──オープンイノベーションをより加速させるための課題は何でしょうか。今後の抱負と合わせて聞かせてください。

坪川●一番怖いのは慣れです。今は環境が変わったことが刺激となっていますが、いずれそれも薄れてしまうでしょう。江守社長を部門長とするイノベーション推進部門の会議を通じて、NICをより効果的に活用していくため、継続的に仕掛けを打ち出し続けていきたいと考えています。NICの整備はあくまでもきっかけで、血を通わせるのは我々の役割です。オープンイノベーションに精力的に取り組む機運は着実に高まっていますが、会社の風土として、さらにしっかりと根付くようにしていきたいと思います。 稲継●ベテラン社員の中には以前の働き方を引きずっている人もいて、いかに適応してもらうかが課題です。また、新しいことを考えたり、コミュニケーションしたりする時間を作るためには仕事をさらに効率化し、生産性を上げなければいけません。同質のものが混ざり合ってもイノベーションは起きませんので、多様な人材を作り出し、意識的に混ぜ合わせるような仕掛けにも取り組んでいきます。国内の化学品研究組織を一本化した一方、海外も含めた研究拠点間の連携は十分とは言えません。今後は各研究拠点の特色をさらに際立たせ、それらを混ぜることによって今までになかった価値を創造し、既存事業の拡大、新規事業の創出につなげていきたいと考えています。

用語解説

(※1)デミ ヘア サイエンススクエア
美容室と同じ設備を備えたラボ・スペース。
製品開発の場として利用できるのはもちろん、セミナーや講習会にも活用しています。

(※2)CFKバレーシュターデ
2004年に炭素繊維複合材料の開発・応用・普及を目的にドイツで設立され、世界各国から約120の企業・研究機関が参画。
当社は2015年3月に加入。同年12月に当社とCFKバレーシュターデが「炭素繊維複合材料開発の連携に関する覚書」に調印しました。

(※3)超高速遺伝子検査用試薬
北陸先端科学技術大学院大学(石川県能美市)の藤本健造教授と当社が量産化を共同開発で実施。
光を照射することでDNAの配列の違いを見分け、遺伝子情報を判定することができます。

(※4)ディアルミエ
粒子の大きさがナノ(10億分の1)メートル大の人工ダイヤモンドを使った透過型スクリーン。
高い透過性を保ちながら、どの角度からでも高鮮明、高コントラストな映像を見られる画期的な製品。