HOME > 事業・製品情報 > イノベーションストーリー > 先端材料 > フェムトリアクター/超微小な合成技術の実用化に、国立研究機関とともに取り組んでいます。
2016年9月 取材
このコーナーでは、長期的な視野で当社が取り組んでいる技術テーマをご紹介しています。今回ご紹介するのは、2020年以降の実用化を見据え、国の研究機関とともに技術開発に挑んでいる「フェムトリアクター」です。フェムトリアクターには様々な手法がありますが、当社が開発した「界面反応型フェムトリアクター」は、従来比100倍以上の生産効率を実現する工法として、化学合成の世界に大きなイノベーションをもたらすことが期待されています。
番戸 博友
コーポレートリサーチセンター
領域開拓研究室
プロジェクトリーダー
斉藤 雄介
コーポレートリサーチセンター
領域開拓研究室
"フェムト"は単位を示す言葉で、千兆分の1を意味します。この研究で取り扱っているのは「フェムトリットル」、つまり千兆分の1リットルという超微量な「液滴」(※1)の世界です。
千兆分の1リットルとは、例えば琵琶湖の水全体(275億トン)のうちのお猪口1杯分相当という、そんな、とても小さな液滴を作り出し、それを「反応装置=リアクター」に見立て、液滴の中で化学反応を起して化合物を合成するのが「フェムトリアクター」と呼ばれる技術です。試験管やビーカーの中で液体を混合・反応させる方法と違って、①生成物の大きさを精密に制御できる、②副生成物が生じにくい、などのメリットがあり、他にも③反応時間を短縮できるため、エネルギーや環境面でも革新的な技術として注目されています。金・銀・銅などの金属を米粒の100万分の1程度の微細な粒子にして電子部品や触媒などの材料に用いる「ナノ粒子」の効率的な生産や、新しい化合物や医薬品開発などへの応用が、期待されています。
当社はこれまで、3つの国立研究開発法人と関わりながら、フェムトリアクターの技術開発に取り組んできました。その発端は、2012年に産総研の呼びかけにより応募したJSTの研究プログラム「A-STEP」(※3)に採用されたことから始まりました。
そこでフェムトリアクターの主たる工法のひとつ「液中エレクトロスプレー法」(※4)を用いてナノ粒子の生産に成功した当社は、2014年にNEDOの「エネルギー・環境新技術先導プログラム」に採択され、産総研、半導体製造装置メーカーとの共同開発体制でさらなる技術開発を目指していくことになりました。この先導プログラムは、学識経験者による厳正な審査を経て採択が決せられるもので、「革新的な技術の原石を発掘し、将来の国家プロジェクト化への道筋をつける」ための産学連携の取り組みです。
翌2015年に始動したこのプログラムの中で、日華化学と共同研究チームが開発に成功したのが、液中エレクトロスプレー法をさらに進化させた「界面反応型フェムトリアクター」という画期的な工法でした。これは反応後に液滴をすべて回収できるため、生産の効率化が図れ量産化に適しているといった特長があります。電導性加工インクや触媒などに使われる金属ナノ粒子の生産などへの応用が可能です。
界面反応型フェムトリアクターは、当社のコア技術の一つである「界面技術」(※5)を用いたもので、従来の液中エレクトロスプレーに比べ飛躍的に生産性を向上させた反応システムです。例えば金属ナノ粒子の生産に同工法を用いた場合、従来比千倍以上の高濃度の製品を、簡単かつコンパクトな装置でスピーディーに生産できることから、従来比100倍以上の生産効率を実現可能であり、フェムトリアクターの未来を拓く工法として期待されています。
現在当社では、産総研やNEDO、半導体製造装置メーカーなどと協力しながら、この工法のさらなるブラッシュアップに取り組んでいます。2017年3月以降は早期実用化のためにこの技術の国家プロジェクトの採択を受けることを目指す新たなステージに移行します。これからも、超微小な化学合成技術が秘める大きな可能性に挑んでまいります。
(※1)液滴
液体のつぶ、したたりのこと。「水滴」とは水のつぶのこと。
(※2)産総研、JST、NEDO
産総研:国立研究開発法人 産業技術総合研究所。我が国最大級の公的研究機関として産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化に取り組んでいます。経済産業省管轄。
JST:国立研究開発法人科学技術振興機構。「科学技術イノベーションの創出」をテーマとする基礎研究などに取り組む中核的機関。文部科学省管轄。
NEDO:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構。産官学連携でエネルギー・地球環境問題の解決と産業技術の競争力向上を目指す日本最大の技術開発推進機関。経済産業省管轄。
(※3)A-STEP
文部科学省が実施する研究成果最適展開支援プログラム。
主に大学や公的研究機関が開発した優れた研究成果を実用化できるよう、企業と協力して産学連携でイノベーションを効率的・効果的に創出することを目指す事業です。
(※4)液中エレクトロスプレー法
産総研が中心となって開発した技術。荷電したノズルから液を出すと、電荷の働きで液が球形(液滴)になる現象を応用したもの。
+-に荷電した2つのノズルから試料A、Bの液滴を溶液中に放出すると互いに引き合い衝突・融合し、化学合成が行われます。
(※5)界面技術
界面とは互いに性質の違う2つの物質が接する境界面のこと。
当社はこの界面を制御する技術を長年培い、繊維加工用薬剤をはじめとするさまざまな製品を生み出してきました。
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