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核酸医薬用の新たな人工核酸モノマー
工業生産プロセスを確立し、販売開始

2022年8月取材

当社は、次世代医薬として期待される核酸医薬の原料となる、アミノ酸由来の人工核酸モノマーの工業生産プロセスを確立し、世界で初めて販売を開始しました。今後、安全性が確認され、核酸医薬に用いられれば、ビジネスとして大きく発展する可能性を秘めた製品です。取り組みの経緯や進捗状況などについて、研究開発担当取締役執行役員の稲継崇宏をはじめ、担当者に話を聞きました。

稲継 崇宏

取締役執行役員
界面科学研究所長

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高村 雅彦

界面科学研究所 先端技術研究部
先端材料研究グループリーダー

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龍井 英之

クリーニング&メディカル事業部
メディカル事業推進部
事業開発グループリーダー

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実用化が進む核酸医薬と課題
kakusan.JPG核酸医薬のイメージ図

核酸医薬はDNAやRNAといった遺伝情報を司る「核酸」を利用した医薬品の総称です。病気の原因となる遺伝子に直接作用するアプローチで、今まで治療の難しかった遺伝性疾患や希少疾患などの治療薬として期待を集めています。

ただ、承認されている核酸医薬は日本で5例、世界でも16例にとどまっています。身近なところで、新型コロナのワクチンは実用化が進んだ例と言えますが、治療薬として用いるにはまだまだ課題があるのが現状です。

普及に向けた課題の一つは原料となる核酸モノマー(※1)にあります。天然核酸由来のモノマーからなるオリゴ核酸(※2)は体内で分解されやすく不安定で、遺伝子まで届きにくい欠点があります。この課題を克服するため、さまざまな工夫がなされていますが、まだ全面解決には至っていません。また、化学合成したモノマーからなるオリゴ核酸は、身体への負担が出やすいなどの傾向があります。

こうした課題を解決しようと名古屋大学大学院工学研究科の浅沼浩之教授らの研究チームが開発したのが「アミノ酸由来」の人工核酸モノマーです。

従来の人工核酸の構造は、糖を主骨格とするのに対し、アミノ酸を主骨格とし体内で分解されにくく負担の少ない構造を実現したことで、生体内での安定性と安全性が高いという顕著な特長が明確になりつつあり、革新的医薬としての実用化が期待されています。

しかし、大学の研究室で合成できるこの人工核酸モノマーの数量が限られていたため、医薬品開発に向けた効果や安全性に対する研究に十分対応ができないことが課題でした。そこで工業生産プロセスの確立を目指し、科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)を活用し、名古屋大学、2016年にCNVシリーズ(※3)の開発で一緒に取り組んだ北海道システム・サイエンス、当社で共同研究を開始したのです。

コスト低減と高品質を実現
開発メンバー.jpg開発に携わった先端材料研究グループメンバー

工業生産プロセスの確立に向けては、当社が界面活性剤の製造などを通じて創業以来培ってきた精密有機合成の技術が役立ちました。

「コスト低減と高品質を実現すると同時に、より安全性を高め製造時の環境負荷を低減させるため、大学での合成方法を見直し、独自の製造方法を確立しました」(高村)。その結果、製法の効率を測る基準である収率が数%から数十%と約10倍に向上し、一度の化学合成で取れるモノマーの量も1g程度から最大50gにまで増え、コストも大きく低減しました。

現在、この人工核酸モノマーを販売するのは世界で当社のみです。

また、この取り組みは、国の機関である日本医療研究開発機構(AMED)の先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業に採択されているのですが、浅沼教授を研究開発代表とする検討チームにより、重要課題である安全性の担保をはじめ、核酸医薬への応用に向け試験研究、各種評価が進められています。

安全性が確認されれば、臨床試験に用いることもできるようになり、当社が製造する人工核酸モノマーを使った核酸医薬の実用化の可能性が見えてきます。そうなればビジネスとして大きく発展する可能性が膨らみます。

「この取り組みは〝製品を売るにあらずして技術を売る〟という当社の創業以来のモットーを具現化した好例です」(龍井)。これは核酸モノマーの量産化という課題をビジネスパートナーと解決しながら、一方で新たな成長エンジンを生み出すテーマとして、社を挙げて積極的に取り組んでいるオープンイノベーションの成果とも言えるでしょう。

「これまでの医療で治療できなかった人を助けられる核酸医薬の実現は、非常に大きな社会貢献であり、意義深い」(稲継)。

当社では中期経営計画の柱として、EHD(環境/Environment、健康・衛生/Health、先端材料/Digital)事業への注力を据えており、今後もH領域の新たな軸として、人工核酸モノマーの研究開発に取り組み、医療の発展に寄与してまいります。

用語解説

(※1)核酸モノマー/核酸を形成する最小の単位分子

(※2)オリゴ核酸/数個から100個程度の核酸が重合したもの

(※3)CNVシリーズ/がんなどのリスクを検査するための遺伝子解析用の試薬に用いる人工核酸モノマー




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